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ナットの状態


 ナットの状態が悪くて様々な問題をひきおこしていることが有ります。そ
こでナットの基本的な状態について書いておきます。ナットを調整するため
には、先ずフレットの高さを計ります。(1フレットと2フレットで計る)
(図17)


zu17図17


 フレットの高さが解ったら、それに0.005inch〜0.02inchを加えたものが
ナットの溝の深さ(溝の底の指板からの高さ)になります。言葉では解りに
くいのですが図18を見ていただければ一目瞭然でしょう。(inchで書いて
あるのは、僕が所有しているゲージが、たまたまinch表示だからです。必要
な方はmmに換算してください。)

    ナット部の弦の高さ=フレットの高さ+(0.005〜0.02inch)


zu18図18


 0.005inch〜0.02inchの何処にするかはギタリストのプレイスタイルによ
ります。強い開放弦を多用するスタイルの場合は高めに、ハイポジションで
のプレイが主な場合は低めに設定しても良いです。またディストーションで
のプレイが多い場合は結構低くても問題有りません。低めにしたほうが圧倒
的に弾きやすくなります。
 ナットの溝を切るときは、決めた数値のシックネスゲージをナットの手前
において作業すると正確に出来ます。(図19)


zu19図19

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ナットの溝について


 ナットの溝の幅は使用する弦のゲージより少し広いぐらいが良いのです。
1.1倍 〜1.3倍位でしょう。狭すぎると弦を押さえすぎて鳴りが悪くチューニ
ングも安定しなくなります。広げすぎると弦の遊びが大きくなりすぎて綺麗
な倍音が出ないことも有ります。この溝切りも専用のヤスリで行うのがベター
です。弦のゲージに合せて、色々な幅のヤスリが用意されています。

 溝の幅の問題は結構重要で、ギターメーカーによっては使用ゲージを指定
しています。(もちろん使用ゲージの指定には他の要素も含まれています)
 ウイルキンソンのナットを使用したギターにはゲージの指定があります。

 話は更に進みますが、溝の形も重要です。ポイントは指板側のエッジが綺
麗に弦に当たっていることです(図20)。ここに遊びが有ると倍音が変わる
ことが有るしチューニングに問題が出ることも有ります。


zu20図20


 ロックタイプのナットで時として仕上げが良くないものが有ります。良く
見るとナット上面が凸凹していて、指板側のエッジが綺麗に弦に当たってい
ないのです。ヤスリで削る等の工夫をしないと快適な状態になりません。ナッ
トの取りつけ角度がいいかげんなものも有ります。

 普通のナットの溝の深さについて述べます。弦が埋まってしまうぐらい深
いものをみかけますが(図21)、あまり良くないと言われています。


zu21図21


 USAの有名リペアマンは弦の上半分が溝から出るぐらいのが良いと言っ
ています。しかし、僕の経験では丁度弦一本ぶんぐらいの深さが良いようで
す(図22)。ローポジションでのチョーキングも安心して出来ますし、チュー
ニングの安定性も良いです。


zu22図22


 ナットの素材はいろいろ有りますが、音及びチューニングの安定性からグ
ラフテック社の物をお勧めします。

   グラフテック社  トレムナット(TREM NUT)
 滑りが良くチョーキング後アーミング後のチューニングは良好です。最近
国内にも出回り始めましたので手に入れやすくなりました。一個$6ぐらい
です。絶対にお勧めの素材と言えます。
 牛骨は音が良いので、腕の良いリペアマンがセットするのなら良いでしょ
う。過去の例では最悪の場合が多いですが。
 よくペグを回してチューニングがスムースに行われず「キッ」というよう
な音がして、急にチューニングが変わることが有ります。これはペグの所為
にされがちですが、悪いのはナットです。こういうギターは弾いているうち
に大幅にチューニングが狂います。アーミング、チョーキングはもちろん、
普通に弾いていても狂います。

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ナットの溝の間隔


 ナットの溝の間隔は「等間隔」にするのが基本です。
ここで鋭い方はこの「等間隔」の内容に疑問をもたれることと思います。す
なわち、溝の中心が等間隔なのか、それとも溝の間(弦と弦の間)が等間隔
なのかです。


zu23図23


 図23を見ていただければその違いが解ると思います。普通のギターはAの
ほうだと思います。溝の中心どうしが等間隔なので使用弦の太さを変えても
変更する必要有りません。Bは使用弦の太さに合せないとこうなりませんの
で、使用弦を指定して設定するのがベターです。使用弦の太さに合せた溝用
の定規が有りますので、それを使うと正確に出来ます。
 どちらの切り方が良いかは一概には言えません。馴れと好みで評価が別れ
ます。僕は以前はすべてAタイプでしたが、最近わりとBタイプにしていま
す。理由はありません。ほんの気まぐれです。

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ナットの状態をよくする簡単な方法


 ナットの状態としては、よく滑るか、全く滑らないか、どちらかの状態が
良いのです。フロイトローズ等のロックナットは後者の考えで考案されたも
のです。
 普通のナットを具合よくするにはどうしたらよいのでしょう。よく滑るよ
うな工夫を施してやればよいのです。

◆掃除     先ず綺麗にしましょう
◆溝を綺麗に  もし溝にガタが有るようだったら、目の細かいサンドペー
        パーで軽く滑らかにします。
◆シリコン被膜 ギター用ポリッシュなどでシリコンを多く含んだものを塗っ
        て乾かします。
◆マジックギタールーブ
        マジックギタールーブというテフロンを含んだオイルが有
        ります。これを少量溝に付けて乾かします。するとテフロ
        ンの被膜が出来て、効果絶大です。ちいさなプラスチック
        容器に入っていて一個$5ぐらいです。(ごめんなさい。現
        在入手不可能です)
◆溝に鉛筆を塗る 鉛筆の粉は一番手軽に、しかも安く手に入るグラファイ
        トパウダーのようです。これを溝に塗るだけで音もチュー
        ニングも具合よくなります。

 テフロンの場合もグラファイトの場合も粒子の潤滑作用です。テフロンや
グラファイトの粒がベアリングの役割をして、滑りがよくなるわけです。テ
フロンパウダーやグラファイトパウダーも製品として売っているようですが、
上記のもので十分な気がして、まだ試しておりません。

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ナットの滑りをチェックする


 ここでナットの滑り具合をチェックする方法を幾つか上げておきます。あ
らかじめ弦をよく馴染ませておいて、チューニングしておきます。
◆ヘッド部の弦(ペグとナットの中間あたり)を押した後、その弦のピッチ
を見てみる。          → →シャープ傾向 になる

◆思いっ切りチョーキングするか弦を引っ張るかした後、その弦のピッチを
見てみる。            → →フラット傾向 になる

◆ロックナット以外でアームがついている場合、アームダウンしてアームを
戻した後、各弦のピッチを見てみる。→ →シャープ傾向 になる

 いずれのチェックでも、ペグでの再チューニングをしないで、普通にちょっ
と弾いてみて、ピッチがすぐに正しい状態に戻るようであれば、実用上さほ
ど問題有りません。ずっと戻らなくて、ペグでチューニングし直さなければ
ならないようであれば、そのギターを使うには「コツ」がいるようになりま
す。
 アーミングの場合はナットばかりでなくペグのバックラッシュ(或いはガ
タ)の影響も受けますので、上記の方法を全て試してみて総合的に判断する
必要が有ります。
 ときどき弾いているうちにだんだんシャープしていくギターを見かけます
が、これも大部分、ナットに原因が有ると考えられます。ナットがよく滑る
と弦の張力が均一になって、この現象はなくなります。

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